《黄金の環の巻・前編へ》

 

 

《男爵メモ》

СЕРГИЕВ ПОСАД
セルギエフ・ポサード

 モスクワの北北東70kmの位置にある都市で、1991年に旧称セルギエフ・ポサードに戻されるまではザゴールスクと呼ばれていた。

 町の中心にあるトロイツェ・セルギエフ大修道院が見もの。城壁に囲まれた中に、数々の美しい教会がひしめき合うように建っている。この修道院の基礎を築いた聖セルギーは、14世紀、モンゴルに支配されていた時代にロシア諸公のまとめ役となった人物で、ロシア独立のきっかけを作った。現在、彼はロシアの守護聖人として祭られている。

 トロイツェ・セルギエフ大修道院は、1993年に世界遺産に登録されている。

 

2004年8月15日(日) 天候:雨のち晴れ

 朝起きると、まだ空はぐずついていた。今日はいつもより遅めの出発で、セルギエフ・ポサードへ向かう。スズダリから221km、バスで4時間。アナトーリさんが持ってきてくれたロシア民謡のテープを聞きながら、雨の街道をひた走る。

♪カ〜リンカ、カリンカ、カリンカ…♪

 妙に耳に残る物寂しげなメロディー。

 そういえば、「魔法使いサリー」の主題歌って、ロシア民謡だってウワサを聞いたけど、ほんとかな?

♪マハリーク、マハーリタ、ヤンバラヤンヤンヤン…♪

 メロディーは確かにロシアっぽい。

 

 

 そんなこと言ってる間に、バスは街道沿いのドライブインに入り、しばしの休憩。

 実は、昨日もこのドライブインに止まってトイレ休憩をした。

 ポクロフ市という所にある、なんてことのないドライブインなのだが、昨日から妙に気になっていた。

ドライブイン

 

ポスター  その理由がこれ。

 建物のガラス窓にはってある1枚のポスター。女の子が抱きしめているレンガのような物はいったい何?

 ポスターの下には、動物の形や市の紋章の形などいろいろな形の“物体”が並んでいるので、恐らくこの“物体”の広告だと思うのだが…?

 

ポクロフスキー・プリャーニク  ポスターの奥のカウンターで売っていたので、買ってみた。縦30cmくらいと結構大きいものだが、値段は30Р(=約111円)。ちょっと硬いパンのような感じで、薄いビニールでくるまれている。

 S馬さんに聞いてみると、この物体はポクロフスキー・プリャーニク Покровский пряник といい、ここポクロフ市で有名なお菓子なんだそうだ。ハチミツをたっぷり含ませたパンの中には、ミルクをじっくりと煮詰めて作った甘いソースが入っているという。S馬さんがみんなに分けてくれたのを試食してみると、うまい! レンガみたいな塊だが、口に入れるとハチミツとミルクの素朴な甘味が広がる。常温保存可能なので、お土産やおやつにもってこいである。

 バスに戻って街道を走りながら良く見ると、道沿いのあちこちでプリャーニクを売っている姿が見られた。地元でも人気のお菓子なんだそうだ。

 

 

 昼までかかって、ようやくセルギエフ・ポサードに到着。この頃には空は晴れ渡り、城壁に囲まれたタマネギ屋根が見えて心ときめいたが、城壁のすぐそばのレストランでまずは腹ごしらえ。

 ペリメニ。ロシア風水餃子。ロシア料理によくかかっているディルという香草がたっぷり。

 「ロシア風」と書いてはいるがまったくの水餃子なので、日本人の口に合わないはずがない。

ペリメニ

 

 

 さて、食事を済ませたら、いよいよトロイツェ・セルギエフ大修道院の城壁の中へ。

トロイツェ・セルギエフ大修道院トロイツェ・セルギエフ大修道院
Троице-Сергиева Лавра
www.stsl.ru

 「トロイツェ」というのは「三位一体」のことなので、「聖セルギー三位一体大修道院」という意味。

 現在も宗教施設として機能しており、巡礼者が絶えない。城壁内にはモスクワ宗教大学と神学校も置かれている。

 城壁は3階建て。1階は砲台、2・3階には銃眼が設けられているというものものしさ。

 

カセットテープ  入場券を買うと、もれなくカセットテープがついてくる。

 礼拝式の音声をおさめたもので、「1999年2月23日聖セルギー三位一体大修道院内食堂付属聖堂にて祝福済み」と書いてあるところがちょっと笑える。

 

ウスペンスキー大聖堂ウスペンスキー大聖堂
Успенский Собор

 城壁のほぼ中心に建つ聖堂。写真にはいろんな建物が写っているが、青と金のタマネギ屋根を持つ白い建物がそれ。イワン雷帝によって16世紀に建てられたもの。

 昨日、ウラジーミルでもウスペンスキー大聖堂を見たが、ここに同名の聖堂があるのは無関係ではない。ウラジーミルのウスペンスキー大聖堂を模して、モスクワのクレムリンにウスペンスキー大聖堂が建てられ、それを模してここにウスペンスキー大聖堂が建てられたんだそうだ。ややこしい。

 

 

鐘楼鐘楼
Колокольня

 18世紀に建てられた、ゴシック様式の鐘つき堂。大修道院の中で最も高い建物で、87mの高さを持つ。中には87個の鐘がぶら下がっている。

 手前の小さな丸屋根の下には、聖なる水が湧き出る泉がある。

 

アナトーリ&セルゲイ  一生懸命通訳するアナトーリさん。

 後ろにいる黒服の若者は、神学生のセルゲイさん。神学生が修道院内を案内してくれるのである。

 

 聖水の湧き出る泉。十字架の左右から水が出てくるようになっている。

 何でも、この水で目の病気が治ったという伝説があり、それ以来聖水として珍重されているとか。故郷に持って帰るため、大きなタンクにくんでいく人も。

聖なる泉

 

 

トイツキー聖堂トロイツキー聖堂
Троицкий Собор

 「三位一体聖堂」という意味。聖セルギーの棺が安置されているありがたい聖堂で、礼拝に訪れる人が絶えない。

 中にはアンドレイ・ルブリョフの「聖三位一体」という絵があるというので、見に行ってみたが……どれ!? 絵が多すぎて判別できないまま終わった。

 内部は例によって撮影禁止。壁一面に最後の審判が描かれ、聖歌隊が荘厳な歌を朗々と歌っていた。

 

ドゥホフスカヤ教会ドゥホフスカヤ教会

 トロイツキー聖堂とほぼ同年代、15世紀の建物。見てのとおり、下の部分は鐘楼だが、その上に物見台がついているという変わった造りを持つ。

 物見台といっても、周りの建物より低いように見えるので、何か見えるようには思えないのだが……何に使ってたのだろう。

 

 大修道院の城壁の外に出ると、晴れ間に太陽が輝いていた。

 なんだかいいことがありそうな気分。

修道院の空

 

 

 さて、黄金の環の観光はこれにて終了、ここからモスクワへ戻ることになる。

 アエロスターにドタキャンを食らってから、現地旅行代理店が血眼になって代わりのホテルを探したらしい。(この時期、どのホテルも宿泊客がいっぱいで、団体客の入れる隙間はないのだ)

 その結果見つけてきたのが、モスクワ市北部にあるイズマイロヴォというホテル。モスクワ・オリンピックのために造られた大きなホテルだそうだ。モスクワ・オリンピックって、確か1979年……築25年って結構古いような気もするけど、大丈夫?

 

 ほのかな期待と不安を胸に、モスクワへ。

 

イズマイロヴォ・アルファ・ホテル
Измайлово Альфа
alfa-hotel.ru
★★★

 バスから見えてきた、4つの高層ビル。「あれがホテルです」というS馬さんの一言に、一同びっくり。想像してたよりずっと大きくて立派。

 4棟あるうちの1棟が、イズマイロヴォ・アルファ。

イズマイロヴォ・アルファ・ホテル

 

水球  ホテルのロビー。ギリシャで開催中のアテネ・オリンピックは、ここモスクワでも注目を集めている。オリンピックに関係の深いこのホテルではなおさら。大きなテレビでオリンピックの特別番組を中継中。

 でも、今放映しているのは水球(ロシア対カザフスタン)。日本では絶対見られないカードであるが、どっちを応援したら良いのかわからない。

 

 ロシアのホテルは手続きが長い。S馬さんが手続きをしてくれている間、我々はロビーで水球を見るともなくすごす。そういえば、さっきバスを降りる時から若くてきれいな女性(日本人)が一緒にくっついてきているが、この人誰?

 S馬さんが戻ってきて説明。こちらの女性、現地旅行代理店の担当者M木さん。この人は全然悪くないのに、立場上謝るためにここに来たのだが、4つ星から3つ星にグレードが下がったことに腹を立てたツアー客らに詰め寄られ、うるうるしてしまった。気の毒

 ここでもう一度言っておきたい。

 アエロスターのくそったれー!

 ほんとに、悪いのは全部アエロスターなんだってば!

 

 

 …さて、とにかく野宿はせずに済んだわけだし、部屋に入りましょう。今日の部屋は25階、さぞかし眺めもいいはず。

 ロシアのホテルは各階にフロントがあって、ここでカギの受け渡しをするようになっている。ちょっと無愛想なお姉さんにカードキーをもらって、部屋に入ってみる。

 

引換券 部屋のカギの引換券。裏に部屋番号と名前、宿泊日が書いてあって、これを各階のフロントに出すとカギをくれる。階を出る時はカギをフロントに返し、この券をもらわなければならない。

 食券代わりにもなっていて、これを持って食事に行くとはさみで隅を切られる。右下と左下が斜めに切られているのは、夕食と朝食を食べた証。

 

 部屋の中。急遽確保したにしてはさすがに3つ星、とてもきれい。 部屋の中

 

窓からの眺め  窓の外にはイズマイロフ公園の広大な緑が広がっている。

 

 

 部屋で一休みしてから、ホテル2階のレストランへ夕食を食べに出かける。

 食事ではいつも他のツアー客と相席になるが、今回は我々のほかに唯一の若いご夫婦。イントネーションから関西の人だということはわかっていたが、今日までお話する機会がなかったので、ちょうど良いと思っていろいろ話を聞いてみた。

 なんでも、旦那さんがサンクト・ペテルブルクのスパス・ナ・クラヴィー聖堂をどうしても見たくて、このツアーに参加を決めたんだそうだ。関西ではスパス・ナ・クラヴィー聖堂に寄るツアーはなくて、わざわざ東京発のツアー情報まで探して来たというから、相当見たかったのだろう。そういえばこの2人は、サンクト・ペテルブルク最後の夜に自由行動になった時、わざわざもう一度スパス・ナ・クラヴィー聖堂の方へ行っていた。

 我々が北欧に行った時はこの逆のパターンだったなぁ……と思い出し、いろいろと話に花が咲いた。それはいいんだけど、飲み物のオーダー取りに来るのがおせぇよ!

 ちっともオーダーを取りに来ないので、S馬さんがしびれを切らしてウェイターのお兄さんに言ったが、このお兄さんは飲み物のオーダーを取る係ではないらしく、「あそこにいる係の彼女に言ってくれ」と言うだけで全然取り合ってくれない。その係のオバサンは何やらしきりに電話で話しているので、ロシア語のわからない我々はきっといろいろ忙しいんだろうと思っていたが、何のことはない、私用電話かけてるだけじゃん!

 ようやく電話を切って、ものすごい無愛想な顔でオーダーを取りに来た彼女。「何があるの?」と聞くS馬さんに対し「何でもある」と答えるので、誰かが「じゃあオレンジジュースを」と注文してみると、「オレンジジュースはない」との返事。何でもあるって自分で言っただろ! 旧ソ連時代を彷彿とさせる接客態度が垣間見える瞬間。

 やっとのことで飲み物が来て、食事が運ばれてくる。この日のメニューはトマトなどの入ったサリヤンカスープ、ポークステーキに、デザートはホットチョコレートであった。これまで、デザートにはアイスクリームが出てくることが多かったので、ホットチョコレートというのはちょっと珍しくて面白かった。温かくドロドロにとけたチョコレートがカップに入って出てくるのである。

 レストランの隅にはホットチョコレート・マシンがあって、ソフトクリームを盛り付けるようにカップに入れていくのだが、配膳係のお兄さんがとろいのか、それとも機械の調子が悪いのか、はたまたチョコレートがたまたま硬かったのか、ホットチョコレートが機械から思うように出てこなくて、係のお兄さんは何度もレバーをガチャガチャさせていた。先に配られた人たちは食べ終わってそろそろ引き上げようかという雰囲気なのに、最後の方の我々の所にはまだ配られていないという有り様である。

 係のお兄さん、ついに別の人を呼んでチョコレートが出ないことを訴えたらしい。呼ばれてきたオジサンもレバーをガチャガチャさせていたが、しばらくすると、ホットチョコレート・マシンが置いてあるすぐそばのドアが向こうからノックされ、2人はドアの向こうにいるらしい人物とドア越しに何か話をしていた。オジサンはどこかへ立ち去り、助けがいなくなったお兄さんが必死になってマシンと格闘してホットチョコレートが配られた。

 ホットチョコレートを飲みながら見ていると、さっきのオジサンがカギの束を持って戻ってきて、さっきノックされたドアにあれこれ差し込んでいたが、カギが合わなかったらしくそのままどこかへ立ち去った。

 たまたま席のそばに来たM木さんに何事か聞いてみたら、なんとドアの向こうに誰かが閉じ込められているのだという。誰なんだよ!? いつからそこにいたんだよ!? なんでそんな所に閉じ込められているんだよ!? 瞬時に様々な疑問が浮かんでくるが、オジサンは戻ってこないし、お兄さんはホットチョコレートを配り終わったのでどこかへ行ってしまうし、オバサンはまた電話で何か話をしていて、誰も助け出す様子がない。ドアの向こうにいる人も静かにしていて、いったいどうなるのだろうと思って見ていたのだが、結局食事が終わるまで誰もドアを開けに来なかった。

 レストランを出る時にまたM木さんに会ったので聞いてみたら、なんでもほかのドアを開けて出て行ったらしいとのこと。なんだそれ!? 自分で出られるなら最初から出てこいよ!

 …イズマイロヴォ・アルファのレストランは、ミステリー・ゾーンであった…

 

 

 夕食を食べてから、まだ明るいので周囲を散策することにする。

 窓から見えたイズマイロフ公園のほか、ホテルの近くにはマーケットや地下鉄の駅もある。しかし、ちょっとだけ治安が良くないので、S馬さんも外出にはあまり賛成でないご様子。「責任を負えませんので、各自のご責任でお願いします」と言われたら結構尻込みする。

 ツアー客のオバサン2人は、「モスクワの地下鉄が見たかったのよ!」と強硬に外出を決め、心配なのでS馬さんがついていった。モスクワの地下鉄駅は“地下宮殿”とあだ名されるほど美しく、是非見てみたかったのだが、治安が良くない上に爆弾テロがあったばかりで、日本の外務省からも「近づくな」と言われているとあっては、そこまで踏み込む勇気はない。

 「ヘタレ」と言われようとも、プロポーズする前に死ぬわけにはいかないのである。

 そこで、おとなしくホテルの敷地内を散歩することにした。「敷地内」とはいっても、4棟からなる巨大ホテルの敷地内なので、十分歩き出がある。

 

イズマイロヴォ・ベータ・ホテル イズマイロヴォ・ヴェガ・ホテル イズマイロヴォ・ガンマ-デルタ・ホテル

 イズマイロヴォは、我々が泊まるアルファのほかに、ベータ Бета 、ヴェガ Вега 、ガンマ-デルタ Гамма-Дельта の4つがある。かつては4棟全部で1つのホテルで、室数5,000室という世界最大のホテルだったが、現在はそれぞれが別経営のホテルになっている。それでも、アルファ、ベータ、ヴェガは1,000室、ガンマ-デルタは2,000室という巨大ホテルである。

イズマイロヴォ・ベータ→ www.beta.msk.ru
イズマイロヴォ・ヴェガ→ 
www.hotel-vega.ru
イズマイロヴォ・ガンマ-デルタ→ 
www.izmailovo.ru

 

 

夕日のヴェガ・ホテル  ヴェガ・ホテルの向こうに夕日が落ちる。

 

 ホテルの中にもいろいろな施設があって、結構楽しめる。レストランやバーもあれば、ショッピングも楽しめるし、インターネットカフェやカジノもある。

 

 夜になると、部屋から見える夜景もきれい。 夜景

 

 いろいろなことがあったが、我々のロシア旅行も明日からは終盤に入ってしまう。

 明日の観光の予定は、赤の広場、聖ワシリー寺院、グム百貨店、モスクワ大学、ノヴォデヴィッチ修道院、ボリショイ・サーカス。そして明後日、旅の最終日には、クレムリンの内部を見学して、一路日本へ帰るのである。

 プロポーズに良さそうな場所が見当たらない。

 もしかすると、今日のセルギエフ・ポサード辺りが一番ロマンチックで良かったのかもしれないが、トロイツキー聖堂では圧倒的な雰囲気に気圧されてそれどころではなく、チャンスをつかめないままに終わってしまった。(天蓋の上からは巨大なイエス様が見下ろしていて、ちょっと怖かったし)

 そんなことを考えていたら、疲れていたのか眠ってしまった。N子ほったらかし

 

ソ連時代の遺構も多く残る首都
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